転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


45 三角屋根の小さな……お店?



 次の日の朝、起きてみると昨日のふらふらは綺麗さっぱり無くなっていた。

 たぶん寝て起きた事で頭と体のバランスが取れたんだろうね。

「よかった。今日もあんなふうにふらふらしてたら、お買いものができなくなるところだったもん」

「おっ、起きたのか? ルディーン」

 ルルモアさんに散々叱られたお父さんはあの後、僕を宿において一人でお酒を飲みに出かけて行っちゃったんだけど、きちんと朝は起きられた所を見ると飲み過ぎたりしなかったみたいだね。

「うん。おはよう、お父さん」

「おや? ルディーン。お前、昨日までより口調が、なんかこうしっかりしてきてないか?」

「そう? ぼく、自分ではよくわかんないや」

 でも、そう言われたって事はそうなのかも。
 レベルが上がった事で呪文が発声しやすいように、ちょっとだけうまく喋れるようになったのかなぁ? よく解んないや。



 朝ごはんを食べた後、僕たちは宿の近くにある市場通りへ。
 ここは前に行った露天市場と違って商会やお店が並んでいるところで、その日に消費する食料などを小売している店が多く並んでいる露天と違って街からそれぞれの村へと帰る僕たちのような人たちが樽や大きな箱単位でお酒や食糧を買ったり、村で消費する魔道リキッドなどの日用品を仕入れる場所なんだ。

「取り合えず馬車の荷台で一番場所をとる酒からだな」

 お父さんはそんな事を言いながら、お酒が売っている商会へと一番に足を向けた。
 確かに肉とか小麦、それに野菜はある程度村で自給自足できてるから最低限の物を買うだけだし、お酒が買っていくものの中で一番場所をとるというのは本当なんだけど、帰りは荷台にかなりの空きがあるから本当はそんな事を気にする必要はないんだよね。
 なのになんでお父さんが真っ先に向かったかと言うと。

「うん、わざわざこの遠いイーノックカウから村へと持ち帰るのだから色々と味見をして、厳選したものを買って帰らないとな」

 とまぁ、この商会では試飲をさせてくれるからだったりする。
 これに関しては、この町に来る前にお兄ちゃんやお姉ちゃんたちに言われてたから覚悟してたんだけど、お父さんは結構な時間を掛けて何種類ものお酒を試飲をするんだって。
 困ったもんだ、なんてお兄ちゃんたちは言ってたけど、この時間はある意味自由時間みたいなものだから、僕もあまり遠くにさえ行かなければお店を見て周ってもいいんだってさ。

「おっと、そう言えばこれを出しておかないとね」

 そう言うと、僕は服の中から首にかかっているカード入れを取り出した。
 これは冒険者カードが入っている入れ物で、このカードを首から提げていると相手が子供であっても商店や商会の人たちは安心して物を見せてくれるんだって。
 それはこのカードを首から下げての入店は支払いが冒険者カードで決済しますよって言う合図でもあるからだそうで、ギルド内の口座にお金が入っていない人はギルドカードで決済しようとしてもエラーがでるから間違いなくお金がもらえるかららしいんだ。
 だからこそ僕みたいな子供がお買い物をする時は、このカードを首からぶら下げておく方がいいんだってさ。

 それでね、実は僕のギルドカードにもいっぱいお金が入ってるらしいんだ。



 ちょっとだけ時は遡る。

 それは昨日、冒険者ギルドでルルモアさんにお父さんが散々怒られてやっと開放された後の事。

「ルディーン。今日狩った獲物の殆どはお前一人で獲ったものだから、あれは全てお前のものだ。だからその売り上げはお前の口座に入れるからな」

「えっ〜、いいの?」

 お父さんが急にそんな事を言い出したんだ。

 お父さんの話だと、冒険者登録した人はみんな、ギルドに口座が開設されるんだって。
 で、イーノックカウ近くの森で狩ってきた獲物を裏の買取所で売ったら、そのお金は税金を引かれてそのままその冒険者の口座に入るそうなんだけど、今日取れたものの内、僕の魔法で狩った6匹のブレードスワローや二匹のジャイアントラッドのお金をお父さんの口座ではなく、僕の口座に入れてくれるって言うんだ。

「お前のは解説したばかりで何も入ってないからなぁ。口座の中身が0セントでは買い物もできなくて困るだろ。ただお前が成人するまでは一日に使える金額の上限は俺やシーラの承諾なしには超えられないようギルドで制限してもらうし、いくら入っているかも閲覧できないようにしてある。まぁこれは使いすぎを防止する為だな。町では珍しいものばかりだから上限を決めないと無茶をしてしまいかねないし、入っている金額が解ると上限を決めていてもお金があるのならもっと欲しいって考えてしまうものだからな」

「うん、べつにいいよ。ぼく、そんなに高いものがほしいわけじゃないから。お父さんにまかせるよ」

 こうして僕は、いくら入ってるかも解らない冒険者カードと言う財布を手に入れたんだ。



 時は戻る。

 と言う訳で、お父さんを酒屋さんに残して探険開始! って言っても、行く所は決まってるんだけどね。
 食べ物とかは何を買ったらいいか解んないし、何よりここは大口で買う人用の店しかないから僕が行っても意味がない。
 それに服とかも僕はすぐに大きくなるし、兄弟の中で一番下だから新しいのを買ってもすぐ着れなくなって無駄になっちゃうんだよね。
 だからお兄ちゃんのお下がりで十分。
 でも、もっと大きくなったら自分専用の鎧とか買うんだ! その時まで服屋さんに行くのは取っておくつもりなんだよね。

 じゃあどこに行くつもりなのかって言うと、それは錬金術ギルドだ。
 僕はまだ始めたばかりだから上級の本とかはいらないけど魔道リキッドを作るのに必要な溶解液は買わないといけないし、その他にもどんな物が売っているのか興味あるんだよね。
 どんな傷でも直しちゃうような凄いポ−ションとか、売ってるのかなぁ? あと属性魔石を作れるって話だから、それを使った魔道具とかもあるかも。
 魔道具にはギルドが無いみたいだから、たぶん錬金術ギルドがそれも扱ってるんだと思うんだ。

 そんな事を考えながら僕は足取りも軽く、予め宿屋で聞いておいた錬金術ギルドのあるはずの場所へ向かったんだけど、ところがその場所にあった建物は僕が想像していた物とはちょっと違ってたんだ。

「あれ? ここって錬金術ギルドだよね? 看板にもそう書いてあるし。でも」

 ここって、どう見てもお店だよね?

 冒険者ギルドは石造りの大きな建物で、中に入るとカウンターにある窓口で多くの人が働いていた。
 そして商業ギルドには行った事がないけど、森の前の天幕では冒険者ギルドみたいに多くの人が働いていたから、たぶんあそこもイーノックカウにあるという建物は冒険者ギルドと同じ様な感じなんだと思うんだ。

 なのにこの錬金術ギルドは木造の濃いオレンジ色に塗られた三角屋根の建物で、その外観はまるでおしゃれ小物雑貨を売っているお店って感じなんだ。
 その上鮮やかな赤い扉の横には何種類もの色とりどりの花が咲いている花壇まで作ってあるんだから、とてもギルドって言った感じじゃないんだよね。

 あまりのギャップにちょっと気後れはしたんだけど、ここまで来て入らないなんて事は流石にできないから、僕は意を決してその赤いドアに手をかけたんだ。
 そしたら、

 カランカラン。

 軽い感じのベルが鳴って開くドア、こんな所も小物雑貨屋さんっぽかったんだけど、中はもっと小物雑貨屋さんっぽかった。
 て言うか、完全に小物雑貨屋さんだよね? ここ。

 店内には生花や鉢植え、それにドライフラワーが並んでいる場所があったり、色とりどりの小さな石が透明なガラス瓶に入って並んでいたりして、僕が想像していた場所とはまるで違う雰囲気を醸し出してたんだ。
 その上、入ってすぐの場所に置いてある丸テーブルには各種アクセサリーまで陳列されていて、そこはまさに女の子が立ち寄る店って感じの空間だった。

 ただ、唯一異彩を放っていたのがそこにいた店員さん。
 真っ白な長いお髭の薄紫色のローブを着たお爺さんが、奥のカウンターで店番をしてたんだよね。
 目が悪いのかな? 小さな丸めがねをして机の上に置いた大きな本を見ているその姿は、熟練の錬金術師って感じで、その人の存在だけがこの場所が錬金術ギルドだって事を主張してたんだ。


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